世界を自分に取り戻せ

松本力×TDU・雫穿大学
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映像・アニメーション作家の松本力と、オルタナティブ大学「TDU・雫穿大学」の映像や美術のクラスを選択するメンバーは、TURN交流プログラムへの参加を通して交流を重ねてきました。「TDU・雫穿大学」には、不登校を経験した人、ひきこもりを経験している/した人、それぞれの生き方を探求している人など、さまざまな学生が通っています。彼らの交流を通して生まれたアニメーション「世界を自分に取り戻せ」は、「記憶の風景」をテーマに制作されました。本作タイトルは、雫穿大学の講座や研究ゼミで、自身の経験から生まれた問題意識を論文形式で発表する命題でもあります。松本は、それぞれの主体性から記憶を何度も再生して観ることが、自分と世界の関係性を対象化することにもなり、映像表現の象徴性や観点となると考えています。



作品の公開に向けて、アニメーション「世界を自分に取り戻せ」制作に携わったメンバーがそれぞれの発想したシーンのコンセプトや長期間の協同作業を通じて感じたことをコメントとしてお伝えします。


世界を自分に取り戻せ 松本力

世界を自分に取り戻す、というTDUのみなさんの命題を知り、ぼくもずっと考えつづけていたことを、これからも信じつづけなければならないと、その記しを憶う。
地平線をぐるりとみわたす場所にひとり、自分におりてのぼってくる天地の垂線の、四つの方角と五つの色と意味のオクタヘドロンのど真ん中から、なにをみているのか。
内から外へ外から内へ、自分がおもう自分のテッセラクトで、そのまなざしと声を響かせて、届く。
手と目と心で重なりあう、真実味という現実と世界という幻想が交わる彼方から、存在の有機的な情報を送受信する。
自分が灯した火の、のろしを未来からみる。両手を掲げ交叉させる、希望のXで、世界を自分に取り戻せ、と応答する。
さようならをいって、それからであうように、時間のあとさきなんて気にしないで、ふたたび、なんどもいうよ。
またね。


TDU・雫穿大学メンバーコメント


朝、この先にあるのは・・・・
TDUメンバー:ながはた ひろし

[アニメーションのコンセプト]
まだ小学校に入りたての小さい頃、毎朝学校に行くのが嫌で嫌でたまりませんでした。知らない人がいっぱい、恐い同級生がいっぱい、あんまり楽しくない授業がいっぱい。そんな学校に行きたくなくて、毎朝泣きそうになりながら行きしぶる僕を、母はなんとか行かせようとして、通学路の途中まで僕をひっぱって見送ってくれました。

ちょうど学校と家との中間地点、道のはじに立って僕を見つめる母を見ながら、行きたくない気持ち、でも行かなくてはいけないらしい、逃げられないという感覚。そのいたばさみになりながら、悲しさやさびしさ、恐さ、孤独を感じていた時の気持ちと光景をアニメーションにしてみました。

[交流の中での気づき]
自分の過去の感覚や印象に残っている光景をアニメーションとして形にする時、元々絵が苦手だという意識もあって、どうしたらいいかなかなか難しかったです。

でも松本さんにいろんなお話やアドバイスをもらうと、ちょっとずつイメージをひろげやすくなりました。しかも、自分の描きたいイメージをアニメにする時、表現しようとする時、細かい動きや“部分”を描くことが大事だったりするということも伝授していただいて、「なるほど!」という感じでした。

自分のイメージが形になっていくうれしさと楽しさ、そして形になったものによって逆にイメージや当時の気持ちが救われるような感覚がありました。不思議で、あたたかい気持ちになる時間でした。


もう見ることができないビデオテープ
TDUメンバー:トヨ マサトシ

[アニメーションのコンセプト]
母が撮影した自分と兄のビデオテープ、今は劣化して見えないテープ、そのテープには映っていなかった母を想像したら、イメージの中でカメラが母の方を向き、母が笑っていた事を作品にしました。

とにかく、枚数を描くこと、描くことで変わっていく事を見たかったです。

[交流の中での気づき]
今までアニメーションを作る事はあったが、「動いている」ように見ることがなかなかできませんでした。しかし、今回松本さんのお話を聞きながら、アニメを作り、「動いている」ように見えた。それは、沢山枚数を描いたこともありますが、松本さんが「語る」「見る」「アニメーションとは」などを自分なりに考え、自分の思いでとつなげて表現したことが大きいと思います。未来を変えることで過去を変えることができるという言葉は、とても強く印象に残っています。

松本さんの「視点が変化する」という言葉の意味を、松本さんのお話や、紹介していただいた映像などを含め、ずっと考えています。


あな
TDUメンバー:かや

[アニメーションのコンセプト]
10代のころ、心にあいた穴。ずっとあきつづけていて、その穴は寒くて冷たくて、孤独だけど、でも、安心しちゃって、外になかなか出られないという、私の穴。

さみしい穴だと思ってたけど、今回の制作で穴の中はキラキラしてみえた。

[交流の中での気づき]
制作過程で、はじめは流れが少し掴みづらく、混乱することもありましたが、アニメーションをどのように作るのか、実践しながら体験できたことが良かったです。

松本さんが一生懸命に言葉と感覚をつなぎとめようとしているのを肌で感じ、発見があり、刺激的でした。松本さんから、時間をつくるなど、色んな言葉をもらいました。


夢と友だちと私(と私)
TDUメンバー:山本 朝子

[アニメーションのコンセプト]
子どもの頃くり返し見ていた夢を基にしました。ストーリーというものではないので、どう作ろうか迷っていましたが、松本さんにご相談して、色んな視点に関心をはらってみてはどうかと提案いただいて、今の自分の関心を見透かされたかのようで、過去の夢という自分だけしか知らない世界に松本さんが舞い降りたような、とても不思議な気持ちになりました。

その中で発見したことがあります。

私のこの夢は、自分に起こっている気持ちや物事は、他者にとっては同じリアリティとは限らないんだ、という幼き頃の自分の、他者と分かたれる初めての驚きと悲しみの感触でした。

そして、年を重ねた今の関心は、分たれた他者と、また出会い直すということにあります。

「私の世界は私にしか見えないんだ」という幼き頃の衝撃体験と、「自分の視点を持ちつつ、他者の視点を発見し、世界と出会いたい」という今の自分の探求が出会った気持ちです。

時間を超えた自分との交流を、松本さん、TURNのみなさん、TDUの皆とできたことは、おそらくこの先も忘れがたい、とても面白いことでした。

[交流の中での気づき]
この抽象的な夢を映像化するのはどうかなーと思いつつ手探りで始めたのですが、松本さんとお話する中で、私がまだ意識化していない意図を汲み取ってアドバイスいただきました。なんかすごいことだなと感動してしまいました。

松本さんの作品はとてもご自分のコアな部分を抽出しているように感じますが、なのにも関わらず、“開かれた表現”という感じがします。松本さんにとって、他者と生きる、理解する、理解される、伝える、伝わる、ということはどういうこととお感じになられるのか更に聴いてみたいなと思いました。あと、ライフヒストリーも聞いてみたいです。松本さんがどうやって表現について深めていらしたのかをぜひ知りたい。

印象に残るお言葉がたくさんありました。


記憶の情景
TDUメンバー:小池 拓

[アニメーションのコンセプト]
心のどこかに残っている記憶を、心の中にもぐって、その場所をウロウロと散歩して感じた事、見えた物を表現しました。

[交流の中での気づき]
普段絵はよく描きます。アニメは静止画(普段の絵)と違って動きの要素があり、表現したいモヤモヤををどのように”動き”で表すか、そういう奥深さを感じました。コマ割りのドローイングアニメ、松本さんの製作される方法がすごく面白かったです。

コロナの中、制作に色々な段取りや準備をありがとうございます。
欲を言えば、松本さんと対面でもっとやり取りしたかったですが…。つまり、その位、刺激をもらえたという事です。またやりたいです。できることなら、もうちょっと余裕を持って制作できたらよかったです。


マンションと少年
TDUメンバー:山本 N&朝倉 景樹

[アニメーションのコンセプト]
10歳の少年が友達の家に遊びに行くためにJR洋光台駅前のロータリーを横切って歩いている。青く開けた空に、駅前のバスターミナル。駅の横には11階建ての大きな白いマンション。午後2時過ぎの光は明るく歩いている人の人数は多くない。ゆったりした雰囲気の駅前。

夕方、6時前。日が傾いてきていて、西の空には見事な夕焼け。広い空が大きく染まっている。急いで家に帰ろうと足早に、さっき通ったのと同じ駅前のロータリーに差し掛かる。広い空。帰路に就く大人たちが行きかう足取りは急ぎ気味に感じる。ふと頭を上げると、さっき見た、11階建てのマンションの大きな壁面が大きく目に入ってきた。しかし、くれないに染まって同じ建物と思えない印象だ。しかし、よく見ると建物が変わったのではなく、その壁が一面色が変わっている。塗り替えたのかとよくみるけれど、足場も工事の跡もなく、夕日で染まっているということに間違いない。その場を足早に帰宅する人にこのことを伝えたいけれど、そういうこともできる気がしない。このきれいな染まった壁と光を忘れないように、網膜に焼き付けたいとじっと見て、自分の家路についた。

季節は夏が終わり、涼しくなり始めた秋口。半ズボンに半袖、自分で作ったベージュのデニムのトートバッグを持っていた。場所はJR京浜東北線の洋光台駅(横浜市磯子区)。横浜の中心へ電車で十数分だけれど、のどかな住宅街。駅の南は駅前をちょっと過ぎると庭付き一戸建ての家がひたすら続く街。駅前のほんの数棟を除くとほとんど2階建てばかり。空の広いのどかな住宅街。

結構この時のことはよく覚えているような気がする。遊びに行った友達はM君の家。M君の家は駅の北側で5階建ての団地にあった。この団地は結構大規模で駅の南と北でちょっと世界が違う感じだった。M君と少年はリコーダーを吹く約束をしていて、トートバックにはリコーダーが入っていたのでした。ソプラノとアルトが1本ずつでしたね。アルトは買って間もなくでわくわくしていたころでした。

[交流の中での気づき]
山本菜々子:今回は前のコマを透かすことができず、うまく描けるのか不安だったけど、こういうやり方だからこそ作れる雰囲気とか、動きがあるんだとわかって幅が広がった感じがしました。松本さんのアニメの魅力がこういうところにあるんだなーというのも感じられて、誘ってもらえて本当によかったなと思っております…。

朝倉:幼少期の思い出を今の自分が表現することで過去の自分の記憶・感触が今の自分へと糸で繋げられるというように感じました。再びつながった自分が今をどんなふうに生きようか、と思えるところがとてもいい体験でした。

松本力
Chikara Matsumoto

絵かき、映像・アニメーション作家。

1967年東京生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン専攻卒業。

再生紙にコマ割りのドローイングを描き、透過光を加えビデオに撮る独自の手法でアニメーション作品を制作。国内外での展示、オルガノラウンジや音楽家VOQ(ボック)とのライヴで、映像と音楽の空間表現を20年以上続けている。また、手製映像装置「絵巻物マシーン」のワークショップ「踊る人形」を学校や美術館、滞在先など各地で行う。現在、創形美術学校アニメーション&コミック専攻、女子美術大学デザイン・工芸学科ヴィジュアルデザイン専攻で、映像の講師を務める。

http://chikara.p1.bindsite.jp/

TDU・雫穿大学

TDU・雫穿大学は、その人自身の関心から学び、自分としての「生き方」「働き方」を模索できるオルタナティブ大学です。不登校・ひきこもりなど苦しさを抱えた若者も多く通い、自己否定感などを解体し自分の関心を探りながらさまざまなことを学び、その関心から始まる自分に合った「働く」「生きる」の形を実践的に創っています。

https://tdu.academy/