ごめんなさい。私がやりました。蜂を追い払おうとして、夢中になってしまって。ほうきを振り回していたら全部壊しちゃったんです。なぜか大きな蜂が突然入ってきて。ええ、ついさっきです。2、3匹いました。ここは未来のオペラハウスだったんです。ええ、オポラの。盲ろうの人たちと一緒に育てていたオペラです。オペラといっても朗読劇のようなもので、上演される作品は、どれも脚本なんです。脚本が映し出されて、それを読み上げる人たちがいる。次の公演も決まっていたのですが……。出口に置いてある本がそれです。まだ読めると思いますよ。残ったのは、今この部屋にあるものだけです。多分、ゴミだと思ってみんな捨てられちゃったんでしょうね。。。他人から見たらそんなに大切なものだなんてわからないしね。アルミホイルとかだったから。大きな風船を膨らましてね。その周りにアルミホイルをロープ状にしたものを編み込んでいくんです。しばらくするとおっきなボールのようなものができて、最後にその風船を抜くんです。すると中が空洞になったアルミホイルの鎌倉のようなものができるんです。子供たちはその中でこそこそ遊ぶのが大好きでした。アルミホイルだから、隙間がたくさんあって、中に入ると外からの光が星のように輝くんです。外を見たい時は手でぐいぐい穴を広げたりしてね。崩れないように注意しながら。いわばそれは子供たちにとっての特等席で、大人の監視からのがれたところで心おきなくオペラを楽しんでいました。なのに、私が目が見えないもんだから、どんな形なのかな、と触っていたらちょっと崩れてきてしまって、元に戻せなくなっちゃって。困っていたら蜂が入ってきたから。追い払おうとしてほうきを振り回したんです。そしたら全部潰れちゃって。それで怒った子供たちが読み上げロボットを叩いて壊しちゃったんです。読み上げロボットも、常連の方の持ち込んだもので、外見はサウナテントなんです。よもぎ蒸し、わかりますか?サウナしながらオペラを観たいかたで。このオペラハウスはみんなが好きなことしながら鑑賞できるというのが売りだったんです。料理しながら見る人もいるし、ハンモックで寝っ転がったりしながら見る人もいるので、舞台上より客席が圧倒的に広いんです。目が見えない・聞こえない盲ろうの方たちと一緒に始めたオペラハウスで、かつては盲ろうの方たちがドアマンをやったり舞台美術を作ったりしていました。しかし、最近は、言葉が読めない人たちが多くなってきて、その人たちへの配慮が足りないってことになって、閉鎖することになったんです。時代が変わったんですかね。リモートで脚本を読み上げる観客も出てきてね。大昔の舞台役者のようでしたよ。歌い上げたりしてね。かつてのオペラを思い出しましたね。それをスピーカーで流せるようになったもんだから、客席はどんどん広がっていってね。国を超えて広がりすぎたのかな。全盛期には沢山の言語に翻訳されたりしてね。言葉の普及力に驚いたもんだけどね。ええ。確かその辺に。何枚か脚本とか、その頃の様子を記録した写真やスケッチも残ってるんじゃないかな。ついこないだの事のようだよ。あれからもう何年も経っていたなんてね。あの絵があればなぁ。あんたのような人が来るってわかってたら、とっておいたんだけど。時間が経ってみないと、わからないもんだねぇ。あんな絵が見たいなんて人が来るとは夢にも思ってなかったよ。いや、私は大好きだったんだけどね。盲ろうの人たちが嬉しそうに稽古したりしてね。あの絵の裏に描かれていた釣りばはまだ残っているみたいだから、いってみたら?あ、また、入ってきた。どこだ?あれ、ここ、どこだ?