<TURN LAND 活動紹介>ハーモニー

アーティスト:深澤孝史、ナカガワエリ
  • 参加作家・団体

「ハーモニー」は2018年度より、TURN LANDの一環として、「お金をとらない喫茶展」を開催しています。ちょっと特別で誰もが楽しめるこの「喫茶展」は、ふらっと立ち寄る地域の人たちとの出会いに恵まれながら、人々がゆったりと交流する時間を生み出しています。
2021年2月に実施した「お金をとらない喫茶展3 ~in my brain〜」は、直接会うことを避けざるを得ない状況であっても、友人と再会したり、未だ見ぬ人たちと出会いたいという気持ちを諦めてしまわないよう、人々をつなぐオンライン企画として開催しました。「in my brain」という企画の名前には、人との接触が難しいのであれば、「せめて脳内接触を」というハーモニーの人たちの想いが込められています。企画当日は、北海道、大阪、岡山など全国からのゲストとオンラインでつなぎながら、6時間もの間、さまざまなプログラムを展開しました。今回の展示では、そこで生まれた交流やエピソードを紹介し、楽しい「脳内接触」の一端を共有します。

ゲスト:テンギョー・クラ、石塚弓子、櫻井文也、シマダカズヒロ

ハーモニー
Harmony

ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込 んだり…さまざまな理由から日々の生活に苦労している人たちの集いの 場。就労継続支援 B 型事業所。昼ごはんを食べたり、簡単な作業をしたり、 困ったときに相談をすることもできる場所として、1995 年より世田谷 区で活動している。一般就労や収入を得るという価値観から少し離れ、 数奇な経験や苦労を重ねてきた人たちがともに支え合い、安心して自分 らしさを発揮できるような場を目指している。

深澤孝史
Takafumi Fukasawa

美術家。1984年山梨県生まれ。北海道在住。理念と活動を行き来しながら作品を制作している。主な活動として、漂着神の伝説が数多く残る町で、漂着廃棄物を現代の漂着神として祀る神社を建立した《神話の続き》(2017 奥能登国際芸術祭)、お金のかわりに自身のとくいなことを運用する《とくいの銀行》(2011 取手アートプロジェクトほか)、新興住宅地の空き家を映画館として開きつつ、ニュータウンと地域の信仰の関係を更新する映画を制作する《New Town My Home Teater/信仰住宅地 》(のせでんアートライン2019)など。ハーモニーでは2018年に《かみまちハーモニーランド》を実施。
http://fukasawatakafumi.net/

ナカガワエリ
Eri Nakagawa

踊る即興音楽家。即興楽団UDje( )、移動造形教室(仮)、姿勢の教室を主宰。幼少の頃より歌に親しむ。高校卒業後は現代美術の世界へ。2000年、阿佐ヶ谷美術専門学校助手。2009年、盲重複障害(視力ゼロ・知的障害・自閉症)をもつ弟の存在、アフリカの太鼓との出会いを契機とし即興楽団UDje( )を立ち上げ、歌・踊り・楽器など言語以外のツールで他者とつながる取り組みを開始。その他、身体のワークショップも実施。2020年春、農を暮らしに取り入れるため岡山県に移住。地球のこと、虫や微生物のことなどについて考えはじめる。”Radio UDje( )”でトークにも挑戦中。
https://erinakagawa.wixsite.com/xxxxx


Photo:江里口 暁子

永岡大輔

  • 参加作家・団体

バンド工房


アーティストの永岡大輔は、2019年よりTURN交流プログラムの一環として渋谷区障害者福祉センター「はぁとぴあ原宿」に定期的に通っています。

ここで永岡が目指しているのは、人と人が深くゆっくりと出会うこと。2020年は、はぁとぴあ原宿の屋上に生えている雑草に着目し、施設利用者(メンバー)と採取した雑草の標本作りやスケッチを行いました。そして2020年末から始まったのが「似顔絵を描く」という活動です。似顔絵は、描く者と描かれる者が互いの眼差しを感じることから始まります。それは社会的な役割を取り払った、存在そのものの出会い。言葉とは違った心の通わせ方を生みだしています。

今回は、はぁとぴあ原宿のメンバーが描いた似顔絵を中心に、交流を通した活動を紹介します。


福祉施設に通えるようになって痛感するのは、その存在と地域やそこにいる人との間にある距離間です。例えば利用者さんと一緒に散歩に行った時、すれ違った人に彼が挨拶をした時に返事はありませんでした。そこにはこの社会の性質もあるのかもしれないけれど、「こんにちは」という挨拶に返事がないという寂しさに対しての理由にはなりません。僕が出会えた素敵な利用者さんたちと一緒に、どうやったら社会と見つめあえるのかを思いました。そこで、このバンド工房は始まりました。まるでライブ演奏をするバンドのように、表現を通じてコミュニケーションをしていくというものです。今回はバンドのメンバーが出会った人の似顔絵を描きます。彼・彼女らの眼差し、そして表現された世界を存分に感じて欲しいです。ちなみに、このバンド工房は似顔絵に止まらず、社会と出会い続ける面白いことをバンド活動としてできたらと思っています。

永岡大輔

永岡大輔
Daisuke Nagaoka

1973年山形県生まれ、神奈川県在住。Wimbledon School of Art修士修了後、国内外にて個展・グループ展による発表多数。
記憶と身体との関係性を見つめ続けながら、創造の瞬間を捉える実験的なドローイングや、鉛筆の描画を早回しした映像作品を制作する。制作の痕跡が意図的に残される作品は作者の記憶ばかりではなく、失われた時間の痕跡としての余韻を空間にもたらす。また、平面や映像作品以外にも、朗読体験を通して人々の記憶をつなげるプロジェクト『Re-constellation』による公演や、現在では、新しい建築的ドローイングのプロジェクト『球体の家』に取り組むなど、様々な表現活動を展開している。

http://daisukenagaoka.jimdo.com

渋谷区障害者福祉センター はぁとぴあ原宿
Shibuya City Welfare Center for Persons with Disabilities Heartpia Harajuku

2008年、渋谷区から委託を受けて開所。障害児者支援施設である。施設入所支援、生活介護(通所・入所)、短期入所、日中一時支援、児童発達支援などの支援を提供している。生活介護事業では、アート活動への積極的参加と、理学・音楽療法などのリハビリテーション支援に取り組んでいる。また、感覚統合とソーシャルスキル訓練を柱にした児童発達支援も行っている。

<TURN LAND 活動紹介> 気まぐれ八百屋だんだんと野口竜平

  • 参加作家・団体


〜だんだんひらき、だんだんつつみ〜

大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん(以下、だんだん)」は、こども食堂や寺子屋など地域に根ざした活動を行う、コミュニティ八百屋です。2017年度からTURN LANDをスタートし、「おとな図鑑」や「だんだんHEKIGAプロジェクト」などの企画を、学生ボランティアたちと一緒に展開しています。2020年度からは芸術探検家の野口竜平が加わり、まちに繰り出し、さまざまな人や物事に出会っていくプロジェクト「町にでるんば」を始めました。「町にでるんば」では、だんだんに通う子供や大人とともにアイデアを出し合い、オリジナルのリヤカーを制作。また、コロナ禍でまちに出られない、人が集えない期間は、オンラインでの活動や話し合いを通して、どのようにだんだんを「ひらく」かについて、考えてきました。

今回の展示は、だんだんの多様な活動に、野口が取り組んでいる「移動」を掛け合わせることで見えてきたキーワード「つつむ」を軸に展開。だんだんのこれまでの活動記録を多角的に紹介しつつ、だんだんという「居場所」とそのひらき方における可能性を探ります。

野口竜平
Tappei Noguchi

1992年生まれ。芸術探検家。
移動行為によってゆらぐ制度や精神を、未知として探検し、その刹那に生じる事態から芸術の起こりをさぐる。主な活動に〈ニューヨーク方面へヒッチハイク〉〈タイヤひっぱりで台湾一周〉などがある。
2021年4月現在は、戦時中に使用された飛行機のタイヤをひっぱりながら、環太平洋地域をぐるっと巡るプロジェクトを構想中。
https://note.com/mukadematuri

気まぐれ八百屋だんだん
Kimagure Yaoya Dandan

2008年に、大田区にて無農薬野菜や自然食品を扱う八百屋として設立。八百屋に加え、地域の人々の居場所や出番をつくり出す文化センターのような場所として、多岐にわたる活動を展開している。これまで、ワンコイン寺子屋、英会話、読書会、読み聞かせなどを開催し、地域の人が講師となるさまざまな講座を実施。また、「子供たちが安心してご飯を食べられる場所をつくりたい」という思いから、2012年に「こども食堂」を開始。全国に広がる「こども食堂」の先駆けでもある。「だんだん」とは、出雲地方の方言で「ありがとう」という意味。

丸山素直

  • 参加作家・団体

エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパンとの旅

アーティストの丸山素直は、2019年のある日、TURN交流プログラムの一環で「エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパン」に赴きました。子供たちとの交流とそこで実施されている美術の授業を通して、美術の授業の在り方や創作する上での大切なことについて、丸山は改めて自身に問いかけました。その経験をもとに、作品を完成させることそのものよりも、プロセスの時間に着目し、豊かな経験に子供たちが出会えるような交流の時間を計画しています。

2020年は遠隔からの交流として、絵を通した文通のようなやり取りを行い、今年度は学校に丸山が赴きながら行う交流を試みています。今回のTURNフェスでは、2020年から試行錯誤してきた交流の様子と、そこで生まれた創作の数々を紹介します。


旅のはじまり

「エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパン」に初めて伺ったのは2019年の秋。場所は東京の荻窪ですが、学校内はまるでネパール。幼稚園生から中学3年生までが、先生たちと家族のような学校生活を送っていました。教室の中では慌ただしく授業が進められています。見学させていただいた美術の授業も、作品を作り始めてから完成するまで15分くらいだったでしょうか。絵描き歌のように、紅葉した木の描き方を最初から最後まで一緒に進めていくので、全員がほぼ同じ作品を完成させました。美術の授業は作品の制作を通じて、工夫する力や観察力、想像力を育むものなので、自分のクラスでは、子供たちのそういった力を豊かに発揮できる仕組みをつくりたいな、と思いました。
2020年2月、小学4年生の美術の授業を企画しました。折り紙を自由に折って切って、偶然できた形から想像して浮かんだ物語を作品にします。教室の中は、自分の物語を発表したい子供たちでカオス状態に。人懐っこい子供たちはとても可愛くて、このまま交流を続けられたらと思いましたが、時期は新型コロナウィルスが猛威を振るう寸前。たった1回の授業を終えて、そのまま日本も緊急事態宣言下に突入してしまいました。その後は離れていてもできることを考えて、絵を通して文通のようなやりとりをしました。
そして2021年。ようやく対面で授業ができるようになり、小学1年生から6年生まで、各クラス1時間ずつ交流することができました。1、2年生は「たいせつにしているものを描く」3年生から6年生は「色と形で遊ぶ」。できる限り個性を大切にしました。どのクラスの子供たちも、目をキラキラさせながら前のめりで取り組んでくれました。
TURNフェスでは、コロナ禍前から試行錯誤してきた活動と、2021年の活動で生まれた作品の数々を時系列と共に展示します。

丸山素直

丸山素直
Sunao Maruyama

東京藝術大学デザイン科を卒業後、同大学院を修了。在学中にウィーン応用美術大学でグラフィックを学ぶ。空間を飾る絵画から洋服のテキスタイル、パッケージや広告などのイラスト、デザインも手がけている。作品には花や小鳥、動物など自然をモチーフにしたものが多く、優しく美しい作品づくりを心がけている。
またワークショップデザイナーとして、幅広い年齢層や環境に合わせた表現活動を企画している。美術やデザインの楽しさと重要性を伝えるべく、最近は国内外問わず、教育機関や病院などの福祉施設で活動している。
一方で、シンセサイザーバンド「CRYSTAL」のメンバーでもあり、2007年にフランスのinstitubesからデビューした。東京、パリ、ニューヨーク、マドリッドなどでも演奏活動を行い、主に海外からの人気を集めている。
東京藝術大学、お茶の水女子大学の非常勤講師。
http://sunao-maruyama.com/

エベレスト・インターナショナル・スクール
Everest International School, Japan

在日ネパール人の子供たちに、ネパール語と英語を話すことが可能な教育環境をつくり出すとともに、「母語や自国の文化も忘れてほしくない」という思いから、2013年に設立されたインターナショナルスクール。開校時は、15名であった生徒数は、約8年の月日を経て、現在約300人の生徒が東京都内外から通っている。ネパールのみならず、日本、パキスタン、バングラデシュなど、さまざまな国籍の子供たちの学びの場になっている。2015年2月にネパール政府より「世界で初めてのネパール人学校」として認定を受け、ネパールの教育指導要項に沿った教育を提供している。

とびらプロジェクト

  • 参加作家・団体

「出会いが広がる探検TURN!」は、とびらプロジェクトで活動するアート・コミュニケータ(とびラー)と一緒にTURNフェス6で発見した気づきや感想を共有しあう参加型プログラムです。受付後に探検の「地図とテーマ」を受け取り、展示室ではじっくりひとりで探検します。その後は、発見したことをアートスタディールームでとびラーと一緒におしゃべりをします。TURNフェス6では多様なアーティストとその交流先との活動が表現されています。探検する心で展示室を巡ると、新たな出来事や人との出会いが広がるだけでなく自分自身の気持ちと新たな出会いがあるかもしれません。

●日時
8月17日(火)15:00~16:30(受付開始14:45)
8月18日(水)14:00~15:30(受付開始13:45)
8月19日(木)14:00~15:30(受付開始13:45)
※日によって集合時間・プログラム内容が異なりますのでご注意ください。

●集合場所:東京都美術館 交流棟2階アートスタディルーム
●対象:どなたでも ※小学生以下は必ず保護者同伴でご参加ください。
●定員:各日10名(先着順、定員に達し次第受付終了)
●参加費:無料
●申込方法:事前申込制。とびらプロジェクトのウェブサイトの下記ページよりお申し込みください。
      https://tobira-project.info/news/turn2021.html

とびらプロジェクト
Tobira Project

とびらプロジェクトとは、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むソーシャルデザインプロジェクトです。広く一般から集まったアート・コミュニケータ(とびラー)と、学芸員や大学教員、そして第一線で活躍中の専門家がともに美術館を拠点に、そこにある文化資源を活かしながら、人と作品、人と人、人と場所をつなぐ活動を展開しています。2012年の東京都美術館リニューアルオープンを機に、東京藝術大学と手を組み2012年に始動しました。とびラーは、3年任期で、会社員や教員、学生、フリーランサー、専業主婦や退職後の方など18歳以上の様々な人たちで構成されています。アートを介して誰もがフラットに参加できる対話の場をデザインし、様々な価値観を持つ多様な人々を結びつけるコミュニティのデザインに取り組んでいます。現在約140名が活動中です。

 2020年 コロナ禍のTURN JOURNAL(ターンジャーナル)

  • 参加作家・団体

「TURN」の取組とそれらの意義、またTURNにまつわる活動や人々から生まれた多様な観点を、さまざまな角度から伝えていく定期刊行物『TURN  JOURNAL』は、これまで冊子という形で、年に1~2回発行してきました。
2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により日々変化していく社会に伴うメディアとして、装いを改めて、夏・秋・冬・春と定期的に発行しました。
TURNにまつわるその時々の声や状況を発信するにあたり、制作時期の社会情勢や課題と向き合いながら、各号ごとに異なるテーマを設定しています。
今回は、そのTURN  JOURNALを集結させ、一望する形で展開するとともに、各号に掲載している日比野克彦による作品のオリジナルを披露します。

【各号特集】
夏号 一人ひとりコロナ禍にどう向き合う?
秋号 距離と交流
冬号 ちぐはぐな時間
春号 あたま こころ からだ

アイムヒア プロジェクト|渡辺 篤

  • 参加作家・団体
「同じ月を見た日」アイムヒア プロジェクト(R16 studio、横浜) Photo: Keisuke Inoue

同じ月を見た日

自身も過去にひきこもりの当事者経験を持つアーティスト渡辺篤は、コロナ禍にあった2020年の4月、「家から月を見てみませんか?私たちは離れていても同じ月を見ることができます」というメッセージをウェブサイトやSNSなどで発信しました。それぞれの場所から月の写真を撮影する参加者を募集すると、ひきこもり当事者をはじめ、外出自粛や生活様式の変化によって孤立感を感じる人、心や認知機能の問題を理由に生きづらさを感じている人、自身や家族に身体の障害をもち困難を感じている人、シングルマザー、パワハラやセクハラの被害経験を持つ人、ジェンダーに関する悩みがある人などさまざまな人が集いました。

「同じ月を見た日」によって生まれた作品群と向き合う時間を通して、孤立しているかもしれない「あの人」や誰かの存在に目を向け、それぞれのまなざしを想像します。


ここに居ない人と見る月

私は足掛け3年に及ぶ深刻なひきこもりを終え、現代美術家として社会復帰してから今年で9年目になる。復帰後から今日に至るまで、孤立やトラウマを持つ当事者と協働する企画を多数行ってきた。近年はそうした活動を「アイムヒア プロジェクト」と称し展開させている。

そうした最中の昨年4月7日、コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言が発出された。奇しくもその夜は一年で一番月が大きく見える満月の日だった。同日にスタートさせた企画「同じ月を見た日」では、ひきこもりや心身の障害など様々な当事者事情を理由に継続的に孤立している人々と、更に、今新たにコロナ禍ゆえの孤立を感じている人々を加えた50名以上と共に遠隔交流を続け、世界中それぞれの場所から月の撮影を続けてきた。

孤立にまつわる問題は昨今国際的な課題となっている。その対応で問われる根本的なあり方とは、“ここに居ない誰かを思うこと”と言える。孤立とは目に見えづらい課題なのだ。けれども、もしあなたが夜空の月を見上げている時、必ずどこか別の場所でも同じ月を誰かが見ているだろう。

コロナ(ウイルス)は多くの人々の命を奪い深い爪痕を残したが、一方では大気汚染や光害などを改善させたり労働環境の変化を発生させたりもし、人類に対して陰と光を生み出した。空に浮かぶ月もまた、コロナ(太陽)による影響での陰と光によってその姿を可視化させている。

2021年2月、横浜で開催した展覧会では、国道沿いの高架下を会場とするオープンエア化させた鑑賞構造によって、コロナ禍における文化・芸術活動の業界全体が抱える空間的問題についても取り組んだ。

今回の展示ではそれ以降のコロナ禍の変遷も加える。国内外から集まった千枚を超える月の写真を用い、ライトボックス作品や大型プロジェクションを制作。遠く離れた場所に居る誰かが会場の明かりを灯す作品など、ここに居ない誰かを想起する作品群を見せる。

アイムヒア プロジェクト|渡辺篤

アイムヒア プロジェクト|渡辺篤
I’m Here Project / Atsushi Watanabe

現代美術家。2009年東京藝術大学大学院修了 。主な個展及びプロジェクト展は「同じ月を見た日」(R16 studio、神奈川、2021年)、「修復のモニュメント」(BankART SILK、神奈川、2020年)。主なグループ展は「Looking for Another Family」(国立現代美術館、韓国、2020年)、「ALONE TOGETHER」(STUK、ベルギー、2020年)。

Photo: Keisuke Inoue

山本千愛

  • 参加作家・団体

かたちのない手ざわり/接地面をなぞる

アーティストの山本千愛は、2016年から「12フィートの木材を持ってあるく」という活動を繰り返し行っています。12フィート(H3658mm×W116mm×D58mm)というサイズの棒を携えて歩く山本は、ゆっくりと歩みを進めていきます。人々が営む日常の生活やリズムから逸脱し、極めてスローな時間軸の中に身を委ねることによって現れる身体感覚と向き合う山本は、想定外な状況や人との出会いにも遭遇していきます。

2020年は北九州に住んでいる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により変更を余儀なくされた山本は、東京を歩くことにしました。今回、その12日間の旅路を記録した映像を公開します。まちなかをささやかに横断していく山本の身体は、何と出会ったのでしょうか。


かたちのない手ざわり/接地面をなぞる によせて

 2020年とその後の未来をどう生きるか、を考えるための作品である。
 山本の主な活動のひとつである「12フィートの木材を持ってあるく」は、2016年から開始した移動を前提とするプロジェクトである。新型コロナウイルス流行によって、「移動すること」は世界的に制限させざるを得ない状況下に置かれている。多くの人々に精神的・物理的な制限がかかるなかで、変容した世の中と自身の生身のリアリティを探る方法として、2020年の夏に東京都港区を130km歩いた。その様子を撮影したビデオや日記、実際に歩くときに使用した木材を中心に展示する。ビデオは途中でカットせずに、歩いたすべての時間を12日間分同時に流す。

 本来想定していた2020年が来ていたとしたら、私は九州に住んでいて、オリンピックに沸き立つ東京の地を歩くことはなかっただろう。しかし、新型コロナウイルスが存在しなかった時でさえ「想定していた未来」というものは訪れていたのだろうか。その状況時々で、エラーが起き、それを肌で感じながら、自分で選択した道を進んでいくのではないだろうか。私はこの状況下の2020年夏に東京都を歩く必要があると考えた。

 移動の手間を省いて膨大な情報に触れることのできるデジタル社会で、なおかつ移動に制限のかかる情勢においても、変わらず季節はめぐり、時間は経過する。木材を持って歩いた膨大な映像の一部始終に鑑賞者が立ち会うことは、夏は暑い、セミの声が聞こえる、木を引きずる音、といった極めてシンプルな生身の時間と激動の一年に想いを馳せる機会になることを期待している。コロナ禍以降、一見すると人と距離を保つ道具に見える長い木材を通じて、通りがかりの人たちと山本が小さな絆を育む場面がある。それは今もなお、抑圧された移動の緊張感や懸念と裏腹に、「生きること」と「出会うこと」のリアリティが立ち上がってくる。

 この展示と並行してオンラインの展示では、2020年に行くことができなかった「九州までの道のり」を今年の春に歩き直し、2020年に起きた出来事とその後の関係を新しく繋ぎ直した作品を公開している。

山本千愛

山本千愛
Chiaki Yamamoto

1995年群馬県生まれ。2018年群馬大学教育学部美術専攻卒業。

2016年より「12フィートの木材を持ってあるく」というプロジェクトを開始。当初は自分の実感を伴って移動をしたいという理由で、自分ひとりで持ち運べるギリギリの重さや長さのものを探した結果、ホームセンターに売られている12フィートの木材に着手する。長期的に活動を継続する中で、家庭の解散や社会情勢に巻き込まれたり、通りがかりの人の協力を得たり、作者本人の想定し得ないエラーに直面していく。次第に生活と制作が切っても切り離せないものとなっていった。木材を持って歩く際、木材は道で削れていき、歩いた道のりを記録するものとして一役買っている。現在は群馬県から歩いて山口県にたどり着き、滞在している。

持ち歩いた木材、移動の道中を記録した映像や日記、スケッチなどを構成してインスタレーションを展開する。自身が被写体となるため、俯瞰で撮られた写真や映像は、道ゆく人に声をかけられた際に撮影を依頼している。

岩田とも子

  • 参加作家・団体

遠くの地面を歩く

身近な自然物の観察・採集から宇宙的なサイクルを体感するような制作をするアーティストの岩田とも子。2020年から、TURN交流プログラムの一環として、多国籍の子供たちが通う保育園「ハーモニープリスクール」と交流しています。岩田と子供たちは、一人ひとりの目線で足元の地面をカメラに記録しました。写真を繋げていき、それぞれが歩いてきた痕跡を感じさせる新しい「地面」が生まれました。

岩田は2018年に交流した「富士清掃サービス」や、2019年に交流した「特別養護老人ホームグランアークみづほ」でも道や地面にまつわる活動を展開しています。今回、地面と向き合った私たちは、これから歩く道や過去の道、そして今同じ時を過ごしている遠いところにいる人の存在を思い馳せることになるかもしれません。


遠くの地面を歩く

なぜ私たちは地面にくっついているんだろう。片足ずつしか離せないし、ジャンプしたってすぐにくっついてしまう。私たちはそんな「近くの地面」を歩く。でも近すぎて無視することだってよくあるし、どこかへ向かうことで頭がいっぱいになって地面なんてよく見ていないかもしれない。

では「遠くの地面」だったらどうだろう、地面しかみえなくて周りのことは何もわからない「遠くの地面」を目にしたら、私たちはどんなふうにそこに立とうとして、どんなふうに歩こうとするんだろう。まずは遠くにいる人々から「遠くの地面」をもらうことにした。

地面が届くとそれはどれも不思議な引力をもっていて貴重な贈り物を受け取るようであった。そこでふと私が始めたことは「遠くの地面」を石ころのように小さく切りとってみることだった。それを紙に貼り付けてみるとちょっとずつ歩けそうな地面ができてきた。「遠くの地面」の持ち主たちも切りとった小さな地面を石ころのようだといって一緒に貼り付けた。石ころをひとつひとつ、一歩一歩、一緒に歩くかのようなその時間は、私たちの足元に新たに地面を描き出した。


岩田とも子

岩田とも子
Tomoko Iwata

1983年神奈川県出身。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。
身近な自然物の観察・採集から宇宙的なサイクルを体感するような制作をするアーティスト。発表形態は多様で、2012年に畑を舞台に展開した「SILENT MIXER」、2014年に香川県粟島での自然物を採集するプロジェクト「粟島自然観察船」、その他自然学校の講師と共同で森の中で子どもワークショップを定期的に行う。生き物に対する素朴な視点、そこからはじまる学びと表現を大切にしている。

http://shizenkansatsu.net/

大西健太郎

  • 参加作家・団体

こもね座特別企画 『コレダ・レーダ』

アーティストの大西健太郎の主宰のもと、TURN LANDをともに展開してきた板橋区立小茂根福祉園とアーティストの宮田篤が、TURNフェス6に向けて映像作品を共同制作しました。

奇想天外なネーミングとともにさまざまな実験的な試みを展開してきた彼らは今回、「着る装置」としてのオリジナル衣装を身にまとい、日常を過ごしました。「二つの衣装が一つにつながった衣装」を着ると、二人の人がつながって行動することになります。「つながって散歩する」「つながってベンチでゆっくりする」「つながって屋上に出てみる」。異なる生活習慣やリズムをもつ者たちがパートナーとなることで、「利用者×大西」「スタッフ×利用者」など、他者と一緒にこれまでとは異なる「わたし」に変身します。ロケーション、場面設定、シナリオ、キャスティングの行程などは、利用者やスタッフの有志で構成されるこもね座職員と、宮田と大西が共同で取り組みます。

「これ、誰だ?」(=コレダ・レーダ)と思わず発したくなる「あなた」とも「わたし」ともつかない存在、あるいは「どちらでもない」存在の間を問いかけます。


「まだ、ワカラナイこと」を投げ出さない勇気

 ある人のコミュニケーション方法は、音声だが聞き取りが難しい言葉や、表情やジェスチャーのような非言語的な要素を多く含む場合がある。そのことを周りの人は知っていて、時々私のようにそれを知らない人が来るとフォローに立ち回ってくれる。小茂根福祉園の日常の風景だ。

 コミュニケーションが一対一にならず、大きな円を描くように、言葉、ジェスチャー、演技、笑いなど、さまざまな姿となって、人と人の間を飛び交っている。2016年にプロジェクトが始まって以来、主にパフォーマンス活動に取り組む「こもね座」は、多くの活動の中で「合いの手」に焦点をあててきた。

 彼らは、それぞれの人が持つ「特性」と向き合っている。毎日ルーティンのように変わらないこともあれば、日々変化すること、あるいは魅惑のベールに包まれたことも…一人ひとりの中にある「さまざまな」側面に目を向け、同時にそれらが移ろいゆくことを引き受けている。それは、「まだ、ワカラナイこと」と向き合い続ける力だ。そして、本作品の原動力となっている。

 本作品は、二人の人がつながって「着る装置」を身につけて、園の日常を過ごす時間を映し出す。二人(ないし、複数人)の動きが装置を通してかけ合わさり、「わたし/あなた」の境界が曖昧な存在(「これ、誰だ?」=コレダ・レーダ)となって映し出される。

 さまざまな姿(グラデーション)であらわれる「コレダ・レーダ」を目撃しよう。こもね座の身体に受信する一瞬一瞬の周波数とカメラを同期させることで、どんな風景が映し出されるだろう。


大西健太郎

 

大西健太郎
Kentaro Onishi

ダンサー。1985年生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了後、東京・谷中界隈を活動拠点とし、まち中でのダンス・パフォーマンスシリーズ「風」を開始する。その場所・ひと・習慣の魅力と出会い「こころがおどる」ことを求めつづけるパフォーマー。2011年に東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と一般社団法人谷中のおかっての共催によるこども創作教室「ぐるぐるミックス」の立ち上げより、ファシリテーター、統括ディレクターを務める。2014年より「風と遊びの研究所」を開設。板橋区立小茂根福祉園にて他者との共同創作によってつくり出す参加型パフォーマンス「『お』ダンス プロジェクト」を展開。2018年南米エクアドルにて「TURN-LA TOLA」の参加アーティストとして、地域住民と共同パフォーマンス〈El Azabiro de La Tola〉の公演をおこなう。http://kentaronishi.wordpress.com

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